PASS -なぜ LOD を用いたアプリを作ったのか-

先日,PASS という LOD (Linked Open Data) を用いたアプリをリリースした.

PASS は,鳥取県が公開している交通事故データ ( オープンデータインデックス - 交通事故情報 ) をもとに,交通事故の発生確率が最も低いルートを検索するアプリ.過去に事故が発生した地点が地図に表示されており,そのような地点をなるべく避けて歩くルートを提案する.GeoHash (空間探索アルゴリズム) を用いることで高速な検索を実現した.

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自分は 日本の LOD を取り巻く環境はまだまだ未開拓だと感じており,その現状にインパクトを与えられるような LOD の活用事例を作りたいという思いから,今回 PASS を開発した.特に以下のような部分に課題があると感じている.

1. データの不足, 一貫性の欠如
国や地方自治体の多くは,データの利活用に対するモチベーションが低い.有用なデータを沢山持っているにもかかわらず持ち腐れさせていたり,公開されているものも自治体ごとでフォーマットがばらばらで使いにくかったりする.最近はビックデータと騒がれおり,どの企業も大量にあるデータを有効活用することに必死になっているが,国や自治体に関しては時代の潮流に乗れていない感が否めない.

今年の DEIM で,国や地方自治体が公開している PDF などから表を抽出する といった研究発表があったが,課題感は分かるが本質的な解決には至っていないと思うし,そもそも各自治体が協力してプラットフォームを作っていくべきものだと思う.有効活用すると社会に役立つデータは間違いなく多い.

2. データを可視化するだけですごい!となる風潮
このようにデータの活用自体が難しい状況であるから,データを体系的にまとめて可視化するだけで,すごい!ってなる.地域のごみ分別アプリとか,AED マップとか.多くの企業は API といういわばインフラを提供してくれており,自分たちはそれらを組み合わせて面白いものや役立つものを作ることができるが,LOD はまだその「インフラ」を提供できておらず,1 つ下の階層にとどまっている.マズローの欲求と同様にある階層が満たされて初めて上の階層にいけると思うので,面白いサービスが続々出てくるようになるためにも LOD がもっと利活用できる環境が整ってほしい.現状はまだまだ「インフラ整備」の段階である.

3. 国が力を入れている点のズレ
経産省は去年,Knowledge Connector という,LOD を用いたビジネス支援のページをリリースした.政府も LOD に力を入れ始めているのは伝わってくるが,まだ時期尚早な感が否めない.このようなものを時間かけて作るより,データの拡充やフォーマット化に先に取り組むべきだと思う.

このような状況下であるので,従来の帰納的なアプローチでは LOD でインパクトを与えるものを作るのは難しい.だから今回は,「こういう活用方法があるのだからデータを整備しよう」と感じてもらえることを目指して,演繹的な切り口でアイデアを考えた.

今回意識したことは,「ただの可視化にならないこと」.交通事故の発生地を可視化するだけではなく,手段としての利用を試みた.とはいっても今は鳥取県でしか使うことのできない何とも残念なアプリなので,LOD の今後に期待したいと思う.